概要

エクセル (Excel) での 「データ入力」「データ保管」「データ抽出・集計」作業は、VBA を使わずに効率化できます。

コピペや手打ちによる手作業での転記をしていて、以下のような問題が生じたことはありませんか?

  • データの入力ミス、入力漏れ、表記ゆれが発生する。
  • 異なるファイル間でデータの矛盾が生じる。
  • 繰り返しの転記作業でストレスが溜まる。

また、データの移動・抽出に手間が生じることで、以下の問題も生じます。

  • データが散乱し、活用できていない。
  • データから必要な情報を取得する、見やすい形にするのに時間がかかる。

これらの問題は、エクセルに標準搭載された機能を使うことで、ほぼ解決できます。 次のように、更新ボタン1つで他の場所からのデータを一括で取得できるため、データの転記の手間を大幅に減らすことができ、データの活用も容易になります。

本記事では、このような仕組みの作り方・活用方法の説明をします。 これにより、コピペ作業が減り、データが管理・利用しやすくなり、作業時間を大幅に削減できるはずです。

エクセルだけでは実現できないこと

「データ入力」「データ保管」「データ抽出・集計」作業に関して、 「同時に複数人でデータを 入力 すること」はエクセルだけでは基本的に実現できません ※1 (データの 抽出 は複数人でも可能)。

10人程度までであれば、Accessと組み合わせることで、複数人での同時使用も可能になります。 それ以上の人数での同時使用を可能にするには、SQL Server / データベースサーバーまたは専用ツールを導入する必要があります。

※1 ここではローカルファイル(共有フォルダなど)での編集を想定

Web版エクセルや、OneDriveまたはSharePoint上に保存されたMicrosoft 365版エクセルであれば、
同一ファイルを複数人でリアルタイム共同編集できる。
ただし、Power Queryやデータモデル機能の併用はサポート対象外であるため、 本記事の内容からは除外。

具体的な方法

「データ入力」「データ保管」「データ抽出・集計」を効率的に行うには、 エクセルの標準機能を組み合わせます。

根幹となる仕組みは次の 2 点です。

  • テーブルを介してデータのやりとりする。
  • ピボットテーブルで一括出力する。

この仕組みを使用したシステムを作成し、利用することで、作業を効率化できます。


システムは大まかに2種類のタイプに分類できます。 作成するシステム全体が

  • 「1ファイルで完結」するものと、
  • 「複数ファイルで構成」されるものです。

難易度、必要知識の量は
『1 ファイル完結タイプ<複数ファイル構成タイプ』です。 以降で、この2タイプについて説明します。

1ファイル完結タイプ

このタイプは 「データ保管場所」と「データ使用場所」が、1ファイルの中にまとまっているものです。 テーブルにデータを保管し、特定のセルやピボットテーブルなどでデータを使用します。

  • 構成: 1ファイル内のテーブルデータを利用。テーブルが複数の場合は結合する。
  • 使用エクセル機能: テーブル、データモデル(パワーピボット機能)、ピボットテーブル
  • 例: 在庫管理表、家計簿など。

データモデル機能を使用しますが、必要最低限の操作のみで十分です。

複数ファイル構成タイプ

このタイプは 「データ保管場所」と「データ使用場所」が、複数ファイル間にまたがっているものです。 複数ファイルのデータを1か所に集約する、またはその逆で、1か所にあるデータを他のファイルで利用します。

  • 構成:
    • 複数ファイルのテーブルデータを結合し利用。
    • または1つのテーブルデータを、他の複数ファイルで利用。
  • 使用機能:
    • テーブル、データモデル(パワーピボット機能), ピボットテーブル,
    • テンプレート, パワークエリ
  • 例: 書類管理、定形業務書類の作成

1ファイル完結タイプで使用するエクセル機能に加え、パワークエリを使用します。 パワークエリは、必要最低限の操作のみで十分です。

エクセルの限界 & 他との比較

エクセルのみでも、 多くの「データ入力」「データ保管」「データ抽出・集計」作業を効率化できます。 しかし、 使用するファイル数・同時使用人数の「規模」が大きくなる場合には、他のツールの使用を検討する必要 がでてきます。

「規模」ごとに、エクセルで対応可能な範囲を示すと次のテーブルのようになります。

規模使用ツール必要エクセル機能複数人での編集リアルタイム更新
極小エクセル
(1ファイル完結タイプ)
テーブル、
データモデル(パワーピボット機能)、
ピボットテーブル
❌ 不可✅ 可能
小~中エクセル
(複数ファイル構成タイプ)
  +
テンプレート、
パワークエリ、
🟡 更新に一手間必要 ※1
エクセル + Access🟡 可能
(安定動作は10人程度まで)
エクセル + SQL Server✅ 可能
専用ツール-✅ 可能 ※2✅ 可能 ※2
  • ※1:編集中に他者が参照元のデータを新しくした場合、そのデータを反映させるのに1クリックが必要。 そのため完全なリアルタイム更新ではない。 ただし分単位での自動更新設定は可能。
  • ※2:ツールによっては、不可能または制限あり。

エクセル(または他との組合せ)を使用する場合は、 使用するファイル数・同時使用人数の 「規模」が大きくなるに従って、必要とするエクセル機能の数が増えます。 AccessやSQL Serverの使用は、学習コストがそれなりに発生しますが、 エクセルだけであれば、学習コストはそれほど高くありません。

エクセルとその他の組合せでは、厳密なリアルタイム更新はできませんが、 更新ボタンの1クリックで更新できるため、それほど大きなデメリットとは言えません。 エクセルを使用した方法での大きな欠点は、 繰り返しになりますが、 「複数人での編集が不可能 or 限定的」であること でしょう (複数人によるデータ読み取りは可能)。

他のエクセル使用の欠点としては、

  • データ容量に限界がある (約100万行)。
  • 大容量データ (数万行程度) では速度が低下する。
  • 属人化が生じる。
  • その他、細かい点で繰り返しの手作業が発生する。

などがありますが、データの分割、ドキュメント(設計書やマニュアル)の共有、VBAの使用等でカバーできます。

まとめ

「データ入力」「データ保管」「データ抽出・集計」の作業は、エクセル(VBAなし)だけでも効率的に行えるシステムが構築できます。 これにより、転記作業は大幅に減り、データを活用しやすくなります。

根幹となる 基本的な仕組みは次の 2 点 です。

  • テーブルを介してデータをやりとりする。
  • ピボットテーブルで一括出力する。

これらの機能+αで、 極小規模の「1 ファイル完結」タイプと、小~中規模の「複数ファイル構成」タイプのシステムが作成できます。

エクセルだけでは「複数人での同時編集」が難しいですが (データ読み取りは可能)、 それ以外の欠点は工夫次第でカバーでき、 業務で十分に活用できるはずです。

【テーブルを介したデータのやりとり】【テーブルを介したデータのやりとり】【ピボットテーブルで一括出力】【ピボットテーブルで一括出力】
【1ファイル完結タイプ】【1ファイル完結タイプ】
【複数ファイル構成タイプ】【複数ファイル構成タイプ】複数ファイルのデータを1か所に集約複数ファイルのデータを1か所に集約1か所にあるデータを他のファイルへ1か所にあるデータを他のファイルへ